37.「ひとり言」~見えなくなっても、あなたはあなたのまま~

「あなたも年老いたわね…目が白くなっちゃって・・・」
最近、少しずつ目が見えなくなってきた。
今までなら迷うことなんてなかった場所で立ち止まったり、家具にコツンとぶつかったり。
そんな姿を見るたびに、胸がぎゅっと締めつけられる。
けれどもあなたは以前とまったくかわらないですね。
目が見えなくなってもそれに気づいていないかのように
無邪気にして、私を笑顔にしてくれる。

若い頃に比べれば、眠る時間が増えてはいるけれども、
歩く姿も少し危なっかしいけれどもあなたは昔と同じあなたです。
ああ・・・この子の世界は私だけなのだ・・・
目に映る景色だけじゃないのかもしれない。
私の声。
私の匂い。
撫でる手のぬくもり。
いつものごはんの匂い。
そして、ずっと一緒に過ごしてきた家の空気。

目が見えなくなっても、
この子の中には、これまでのたくさんの思い出がちゃんと残っていて今も私とだけの世界でいきてくれている。

若い頃は、元気に走り回っていた。
散歩に行けば嬉しそうに先を歩いて、
名前を呼べば振り返って、
帰ってくれば尻尾をいっぱい振って迎えてくれた。

あの頃は、ずっとこの時間が続くような気がしていた。
そして今、目の前の景色まで少しずつ変わってきたけれども私はここに、
あなたのそばにいる。
あなたの世界は何も変わってはおらず、満足してくれている。
そう思っていいよね。

今まで、この子が私の隣を歩いてくれた。
これからは私が、この子の隣を歩く番。
見えなくなった分だけ、もっと近くにいる。
見えなくなった分だけ、もっと声をかける。
見えなくなった分だけ、もっと触れていたい。
一緒に過ごしてきた年月が、この子の顔や仕草のひとつひとつに刻まれている。
あなたが見えなくても、私はあなたをちゃんと見ているよ。

そして、これから先もずっと――
あなたのそばにいるよ。
ゆっくりでいい。
一歩ずつでいい。
最後まで一緒に歩こうね。

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